「味園ユニバース」山下敦弘監督ティーチイン@立川シネマシティ
2015/02/21 12:55 @立川シネマシティ
上映終了後、司会の方の呼び込みで監督登場。
「渋谷君じゃなくてすみません(笑)短い時間ですがよろしくお願いします」
いやいやいやいや!むしろ監督ティーチインを待ってました…!
(渋谷さんはこういう場でどんどん喋るタイプではないし)
ティーチインという事で、挙手したお客さんの中から司会が指名した方が質問できる形式。
以下、記憶をもとに書いたので順番やニュアンスなど違うところもあるかと思います。
Q. 音でこだわった点は?
A. ライブシーンが3回あるんですけど、やっぱりそこの音に一番こだわりました。クライマックスの味園でのライブシーンをゴールとして、そこに合わせてバランスを考えました。
(司会「ラストのココロオドレバの渋谷さんのレコーディングには、監督も立ち会われたそうですが」)
渋谷君とも相談したんですが、ライブなので、作り込むのではなく一発勝負みたいな感じで、なるべく最初の方のテイクを使ってます。
Q. 渋谷・二階堂をキャスティングした経緯は?
A. この映画がプロデューサーと『渋谷君で何か映画を作りたい』というところからスタートしたので、渋谷君は最初から決まってました。その相手役ってなった時に、恋愛関係にしたくなかったので、最初は中学生くらいを想定してたんですが、中学生の女の子がスタジオやってるっていうのはリアリティがないので、もう少し年齢を上げて『今10代で力のある女優さんは誰だ』ってなった時に二階堂が浮かんで。たまたまその少し前に知り合いの結婚式で二階堂に会ってたので、いいタイミングでした。
渋谷君はライブは見せて貰ったんですけど演技はほとんど見てなくて、『空っぽで』という事だけ伝えたら、見事に空っぽになってくれました。
いざ2人が並んでみたら二階堂が思ったより大人だったので、恋愛っぽい空気が出ちゃうかなと思ったんですが、それは全然大丈夫でした。
Q. 渋谷すばるで他の映画を撮るとしたらどんな役?
A. 渋谷君って現場でも役者と言うよりミュージシャンなので、相当な企画じゃないと出ないんじゃないかと思います(笑)僕は今回茂雄という役をつくってやりきったので、次っていうのはなかなか考えられないんですけど、僕が打ち上げでべろべろに酔っ払って渋谷君に「日本で実写版AKIRAをやるなら鉄雄できるよ」って言ってたらしいです。僕は覚えてないんですけど(笑)鉄雄っていうのはいじめられっ子なんだけど超能力に目覚めるっていうキャラクターで、渋谷君はそのマンガを読んだことないと言ってました。まあ日本で実写化はないでしょうね!
Q. カスミがポチ男に指を2本出すシーンは、過去を思い出してほしいのか未来をつくってほしいのか。
A. カスミも最初はポチ男に過去を思い出させてあげようとしてるんですけど、途中から工場の話とか嘘を吐いたりしていて、あのシーンでのカスミは『思い出してほしくない』と思っています。だから、その後の台詞のそのまま、未来をつくってほしいっていう意味です。それは二階堂にも伝えて、ああいうシーンになってます。
Q. 印象的な街の風景は、セットや意図的なものなのか元々ああいう街なのか?
A. 以前新世界に住んでたんですけど、大阪ってくすんでるんですよ。東京は都会でも緑が多いんですけど、大阪は緑が少なくて、隙間なく建物が建ってて公園も殺風景でっていうイメージがあったので、そういう風景のエリアを選んで撮影しました。
スタジオSATOは空き家を改造したセットなんですけど、それ以外は本当にある場所です。途中に出てくるK2っていうお店も本当にあるんですが、普段はライブはやっていなくて、昼間っからおっちゃんおばちゃんがカラオケしてるような、カラオケ道場みたいなお店です。
今回撮影をしてみて、大阪は音楽が好きな街なんだなって感じました。偶然ですけど、そういうところで音楽の映画を撮れたっていうのはよかったです。
Q. 作中のTシャツと同じそのパーカーはどこかで買ったもの?
(作中カスミが着ているTシャツと同じデザインのパーカーを監督が着てらしたため)
A. これ!?(笑)これは大阪に「SUPA RESQUE」っていう服屋さんがあるんですけど、そこの店員さんがやってる「ざxこxば」っていうバンドのパーカーです。インターネットでも売ってるので、よかったら買ってください(笑)
http://resq.base.ec/
Q. 終盤のシーンで、カスミは何故茂雄の居場所がわかったのか。どうやって楽屋まで連れて来たのか。
A. やっぱりそこ聞かれますよね。みんなそう思ってると思います。ロッテルダムでもそこツッコまれました(笑)
あそこは『カスミがバット持って殴りに行く』っていうのを思いついてしまって、それを最後のライブシーンに繋げるにはどうしたらいいかって直前まで色々考えてたんですけど、めんどくさくなっちゃって(笑)そこの整合性よりも、『カスミが茂雄を迎えに行く』っていう事の方が大事なんじゃないかと。茂雄の人生に関わったっていい事なんか何もないんですけど、そんな茂雄をカスミが迎えに行くっていうところに意味があると思ったので。でも、そこが引っかかってしまったというのはこちらのミスなので、次から頑張ります(笑)
他の人の意見としては『実は茂雄はもうあそこで死んでいてライブには出てなくて、あのライブは茂雄が見てる走馬灯みたいなものなんじゃないか』っていう解釈もあったんですけど、それは悲しすぎるからやめようってなりました。
あと、赤犬の人から出た意見では、ヒデオさんっていうすごく声のいい人、あの人が水晶玉みたいなものを持ってて、それで茂雄の居場所がわかるっていうのもありました。シナリオの段階ではそんな事思いつかなかったです(笑)
Q. 予告編にあった2つの台詞が本編ではカットされている理由は?
A. 紗理奈さんのとこですよね?(あと茂雄の「しょーもな」と)ああ、うんうん。
紗理奈さんの「あれ絶対好きやで」は、実はアドリブなんですよ。マンティコアっていう、これも実際にあるバーでカスミがポチ男について喋るっていうシーンで、僕がしばらく止めずにいたら勝手に喋り出して(笑)でもすごく自然だったんで最初は残してたんですけど、台詞が強すぎて、恋愛になってしまうって事でカットしました。でもマキちゃんからしたら、そう見えてたんだと思います。カスミが明るくなって、明るくなったって言っても全然明るい顔してないので、どんだけ暗かったんだって話なんですけど(笑)女に見えてたんじゃないですかね。カットしたのに予告では使われてて、僕もびっくりしました(笑)
茂雄の「しょーもな」はユニバースの楽屋で、タカアキさんが運ばれて来た時に言ってる台詞なんですけど、その後ステージに立って歌うっていうのが茂雄の答えなので、その前にひとつ決着をつけてしまうと言うか、言葉にしてしまうのは違うなって思ってカットしました。あと、「しょーもな」っていうのはやっぱりカスミの台詞で、最後にカスミが「しょーもな」って言う映画でもあるので、「しょーもな」はカスミに集約させました。
Q. ポチ男とカスミのキャラクターは、監督からはどういう指示をしたか。渋谷・二階堂からの提案はあったか。
A. 茂雄は元々刑務所に入ってたりとか、悪いグループにいて特攻隊長みたいな感じなので、渋谷君は最初その暴力性みたいなものに悩んでたんですけど、ショーン・ペンが監督した「インディアン・ランナー」っていう映画に出てくる弟が、理由なき暴力と言うか、もうどうしようもない人間の衝動みたいなものを持ってるキャラクターで。今回の作品とは全然違うので、直接関わりがあるわけじゃないんですけど、それを見て貰ったら渋谷君も腑に落ちたみたいでした。他にもいくつかの映画を参考にして貰いました。
カスミに関しては、こちらの不手際とか色々あって、大阪弁の役だって事が二階堂に伝わってなかったんですよ。衣装合わせの時にそれを知った二階堂が慌てていて、至急方言指導つけてください!ってなりました。でも大阪って、ああいう女の子いますよね?映画とかマンガでも。じゃりン子チエとか。おっさんと対等に渡り合える女の子ってイメージがあって、二階堂にはそれを伝えたような気がします。あんだけおっさん引き連れてる女の子はそうそういないですけど(笑)
二階堂はとても頭のいい女優さんで、こっちが間違った事を言うと、それはどうしてですかって質問してくれました。そうやって、現場でつくっていった感じです。
カスミはライブの時はいつも制服を着てるんですけど、二階堂は、最後のライブでは着たくないって言ってました。Tシャツと短パンでいいんじゃないですかって。最後だからって言って着て貰ったんですけど、何でそう言ってたのかはわからないです。二階堂の中では、着たくなかったんでしょうね(笑)
最後に、監督から御挨拶。
「この映画は渋谷君の魅力と才能をいかに映画にするか、彼の本当の魅力はライブだと思うんですけど、それをどう映画として見せるかという事を、僕とスタッフみんなで一生懸命考えてつくった作品です。最後のライブシーンは映画館で観たら本当にユニバースにいるような感覚になれるようにと思って作ったので、是非何度も足を運んで頂ければと思います。あ、赤犬も、みんなスケジュール合わせるのが難しい中頑張ってるので!東京でライブがあったら行ってみてください。今日はありがとうございました」
質疑応答で20分くらい。1の質問に10返す勢いでとても丁寧に答えてくださって、映画に、そして観客へも大変真摯な方でした。とっても聞きごたえのあるお話で、充実した時間でした。
個人的な意見として、『映画にしても歌にしても解釈は受け取った側のもので、どれが正解でも間違いでもない』と思っているので創り手側に細かい意図を問うのはあんまり好みではないんですけど、それによって気になっていたところが監督の口から明言されたのはよかったなと。
自分では想定もしていなかったような質問も出て、面白かったです。
エイターとしては、『渋谷すばる』という人間の本質を理解してくださっている方なんだなという印象を受けました。今回の映画が初対面だったのに、こんなにもわかるのか!って。質問への回答ひとつひとつもそうですが、「役者と言うよりミュージシャン」「一番の魅力はライブ」ってさらっと仰ってたところが特に。
勿論それはポチ男(茂雄)というキャラクターや映画そのものからも伝わってたんですけど、実際に監督のお話を伺って、『ああ、この人はわかってくれる人だ』って、実感しました。お前何様だって話ですけど(笑)ファンってそういうとこあるよね。
渋谷さんに限らず、人や街、物事の本質を見ている方なのかもしれない。だからああいう、嘘のない映画が撮れるんだろうなと。
今日のお話を踏まえて、また観たいと思います。
貴重な機会をありがとうございました!